〜社寺建築☆美の追求〜 大岡實の設計手法  大岡實建築研究所
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医王寺本堂(東京都世田谷区)
この医王寺は新編武蔵風土記稿にも「薬王山宝寿院と号す」と紹介されており、玉川八十八ヶ所霊場34番、関東九十一薬師霊場11番として親しまれてきたという。その医王寺で、大岡實は自身の作品として初めての錣葺入母屋造(しころぶきいりもやづくり)の社寺形態を実現する。大岡實は「大きく重々しい屋根は日本寺院建築に重厚な感じをあたえる根本的要素である」と同時に「すべての場合、建築の形態は上にゆくにしたがって軽い感じでなければ安定した形は得られない」との考えのもと、「錣葺は強靭なうちに安定感があり、優れた形態である」としてその多くの作品で「安定感があり意匠的に優れている錣葺の手法を採用した」のであるが、その手始めがこの医王寺である。

平面及び立面図

断面図

断面図

錣葺屋根段差部分詳細図

拡大図/勾配屋根もコンクリート造で「段差部」も同じ/軒先の屋根のみ木造となっている

さて、次に斗拱(ときょう)他を見てみよう。

向拝(ごはい)斗拱・蟇股(かえるまた)木鼻(きばな)及び屋根軒反(のきぞ)り図(上層・正面・(つま)・向拝)

向拝部分断面図/斗拱の肘木は後の眞光寺他で採用される挿肘木に似た雲型のデザインであるが、ここでは大斗が受ける「大斗肘木」となっている

向拝部分高欄(こうらん)

ここで向拝部分の大斗であるが、実際の建物を見ると上記の詳細図とは違い、大斗の斗繰りが柱の構造断面を欠損しないために柱幅と同じであるにも関わらず、大斗の下に皿斗を置いて、意匠上の違和感が出ないように納めている。
向拝部分
大斗部分拡大写真/柱の天端に皿斗が乗る
また、身舎の部分でも柱の上部の頭貫を長押と一体化させ、大斗の斗繰りが柱の構造断面を欠損しないために柱幅と同じであるにも関わらず、意匠上の違和感が出ないように納めている。
身舎部分
大斗部分拡大写真/頭貫と一体化した長押が廻る
また、上記の写真を見ると法隆寺金堂に見られるような雲肘木をイメージしたと思われるデザインの肘木となっている。(人字形の中備も同じ発想なのかもしれない)
下の写真の二重(二成)基壇も法隆寺金堂を意識してのものかもしれない。
基壇が二段になっている
そして何と言ってもこの錣葺屋根は大岡實の法隆寺に対する愛着の表れとして捉える事ができるのではなかろうか。(大岡實は法隆寺金堂の屋根は当初から入母屋形式であって、錣葺形式ではなかったことが解体修理の調査から分かっていたにもかかわらず、錣葺屋根を持つ推定復元図を作成していることからも推察できよう)
錣葺屋根をもつ本堂/ここでは向拝の屋根が一段下がって錣葺屋根に取り付いている
なお、法隆寺の玉虫厨子から創建当時はそうであったと言われる鴟尾も採用されている。
年月 西歴 工事名 所在地 工事期間 助手 構造設計 施工 構造種別
昭和35.06 1960 医王寺 本堂 東京都世田谷区 昭和35.06〜38.06 松浦弘二 志野建設 志野建設 RC造
 
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また、医王寺では本堂の他に客殿・庫裏も設計している。

平面図

立面図

断面図

なお、文中の鉤括弧(かぎかっこ)の部分は文中で示した資料や大岡實著作並びに寄稿他から引用したものです。
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